いささかの危惧

尖閣ビデオ流出騒動に、世も末と怒り心頭な今日この頃。
 
いや、事件自体も流出した事も腹立たしいのですが、一番深刻なのは、"犯人"を守ろうとする世間の風潮なんですよね。
 
曰く、
「犯人探しをするな」
「結果として情報が公開されたのだから良かった」
民主党が隠さなければこんな事態にはならなかった」
 
ネット上で騒がれているだけなら、「またネット右翼が馬鹿言ってらァ」と嗤えばすむのですが、どうもそうではないようで。
例えば今朝の読売新聞一面「編集手帳」。
 
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「尖」という字は「小」と「大」の組み合わせで出来ている。発生現場の地名にその字が含まれているせいか、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件からはいくつかの「小」と「大」が浮かび上がる◆(中略)(船長と海保職員)二人のどちらの行為がよりタチが悪いか−罪の大小は論をまつまい◆(中略)悪質なほうは、お咎めもなく処分保留で釈放しておきながら、もう片方だけを重く処罰することはできないだろう。(以下略)
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…馬鹿じゃないの。
一応は大新聞社とされる読売がこのザマです。開いた口が塞がりません。
 
衝突事件と流出事件は、その性質が全く異なっています。
両者を混同して事の大小を比較する事自体が、全くの愚行です。
 
僕自身は映像を見た今も、非公開とした政府の判断が正しかったのかどうか結論が出ていません。
が、トップが「国家機密につき厳秘」とした情報を部下がネット上に流す事の是非は、全く別次元の問題です。
 
というよりコレ、組織論根本からひっくり返してますよね?
当人は「国民は映像を見る権利がある」「罪を犯したとは思っていない」と述べているそうですが、良かれと思ってやるのならば何をバラしてもOK、であるのならば僕にだってぶちまけたい裏事情や内幕話なんて幾らでもあります。
こんな行為が許されるのなら、こちとら鬱々とした挙句に前の会社を辞める必要なんて無かったんだ!
↑…って怒りの根源はそこですか(笑)。
 
ともあれ、皆それこそ小なり大なりそういう鬱屈を抱えつつ、懸命に頑張ったり僕みたいに投げ出したりしているんです。
国民のため、なんて独善的に大義名分を持ち出し発散して、本人スッキリしたのでしょうが、冗談じゃありません。
 
流出によって被害を受けた人はいなかった?
ええ、結果論では、そして現時点ではそうでしょうよ。
 
もし映像を見た中国人が暴徒化して、日本人が危害を受けたら、彼は責任を取ったのか?
機密情報をいとも簡単に流出させる国、とのレッテルを貼られた日本が、諸外国からの情報収集に難儀するようになったら、彼は責任を取るのか?
いや、そもそも責任なんて取れやしないのです。
彼は国家元首でも首脳部でさえもない、ただの一官僚ですから。
まさか、問題が起きたら市ヶ谷で割腹すれば良いとでも思っているのでしょうか。それこそ幼稚です。
 
無論、映像を公開しないことによる不利益だってあるでしょう。
その責任は、菅や仙谷が取ればいいだけの話です。彼らはそのような立場なのですから。
そんな所まで、神戸の彼が背負い込む必要なんて、どこにも無かったじゃないですか。
 
驚くべき事に、彼が行った事が刑事罰に問えるかどうかは、識者と称する人々の間で見解が分かれるそうです。
現行法にそのような不備があるのならば、それはそれとして仕方の無い事です。
早急に法整備を図って再発防止に努めてもらう他ありません。
でも、当然組織内での処分はされるのですよね。懲戒免職ですよね。
ここで誤った「温情」を示せば、世界中から不興と不信を買うこと間違いありません。
ここで言う「世界」には、中国が含まれる事をお忘れなく。またナメられますよ。
 
正直、現場に立つ人々が、命がけで撮影した証拠映像を握りつぶされたと怒りを覚える所までは理解できるのですよね、さすがに。
その意味では、起こるべくして起こった事件なのかもしれません。
だけど、周りが安易に囃し立て、感化され、かような犯罪行為を許容、まして賛美するような事態は実に危険です。
感情に流されるって、楽だけど後々怖いですよ。
 
昨今の世間の風潮には、どこか「五・一五事件」を想起させるものがあって、背筋が凍ります。
なーんて書くと「ゴイチゴジケンって何?」と素で聞いてくる人もいそうでそれがまた怖いですが(苦笑)。