作りそこねた落とし穴

おっと、旭川の悪口はそこまでだ。
 
映画「ノルウェイの森」、観てきました。
公開翌日にガラガラのわが町の映画館。
大丈夫なんだろうかと気を揉みましたが、うん、日曜の昼間に見る映画じゃなかったね(笑)。
 
何よりまず、"空気"の作り方が上手かった。これはもう、お見事。
スクリーンを前に、原作を読む時と全く同じあの寂寥感に浸れる、というのは凄い事です。
コレだけでも足を運んだ価値は充分にありました。
 
あと、カメラワークは凝っていましたねえ。「芸術作品を撮ってやる」という気迫を感じました。
ただ、若干パターン化しているきらいがあったのは少々残念。
人物を柱の影に隠すのが、本当に好きですよね(笑)。
 
原作既読である以上、どうしても比べてしまうのは性でして。
以下、登場人物についての言及はネタバレ気味なので反転。
 
ワタナベ君の熱演が素晴らしかった。僕自身が抱いていたワタナベのイメージそのままです。
世の中から一歩引いたような立ち位置や、演劇めいた台詞回し、実にサマになっていました。
 
一方で、原作以上の輝きを見せたのが緑。なんという昭和美人。
奔放な原作緑とは微妙にベクトルが異なるけど、このアレンジは小気味良かったです。
このワタナベと緑なら惹かれあうのは自然だけど、火事とキュウリのシーンは削って欲しくなかったなあ。
 
直子は賛否両論出るでしょうね。僕の中で直子ってのは、もっと普通の女の子なのですが。
清楚な容姿と内面の深い闇、という相反性が彼女の魅力でもあるのですが。
だけど、映画版の方がリアリティはあるよなあ。早足デート、怖かったです。このアレンジは有り。
 
明らかにコレは無いだろう、と唖然としたのがレイコ先生。
登場シーンからずっと違和感が拭えなかったのですが、まさかのお葬式カット。
じゃあ寝ないの?と思ったら一方的に求めてくる始末。ワタナベ君、最後まで乗り気じゃなかったですよね(苦笑)。
原作の「僕も同じこと考えてたんです」という流れが印象的だったので、さすがにこの改変は…
 
原作を一言一句変えずそのまま映像化しても意味は無いわけで、まあ何かしら仕掛けたくはなるのでしょう。
ただ、よりにもよってあのシーンに手をつけてはいけなかったと思います。
直子が死んだ後の展開は、正直疑問符だらけだったですねえ。
ラストの電話シーン、暗い廊下に佇むワタナベと、陽だまりの中に居る緑が対比されるじゃないですか。
あくまで個人的な思い入れですが、僕の中ではあの明と暗、逆なんですよね…
 
良い面も悪い面もあった映画化でしたが、ここは違う!と憤るのも楽しみのうち。
原作既読者なら、観て損は無いでしょう。
未読者は、たぶん展開についていけないでしょうねえ。
昨今流行っているように、前後編に分けるのも一案だったかもしれません。